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同一労働同一賃金で派遣社員の雇用はどう変わる?企業担当者が押さえるべきポイントを解説!

労務管理

2020.06.23 公開 / 2020.06.23 最終更新

2020年4月1日に改正労働者派遣法が施行され、「同一労働同一賃金」の考え方のもと、派遣社員の待遇が大きくかわることになりました。ここでは、派遣社員の待遇決定のルールと、企業担当者が押さえるべきポイントについて、わかりやすく解説します。

同一労働同一賃金とは

「同一労働同一賃金」とは、正社員と非正規社員(契約社員・パート社員・派遣社員)のあいだの不合理な待遇差を禁止するルールです。同一労働同一賃金の法律の施行により、職務内容が同じ従業員については、雇用形態に関わらず同じ賃金を支払わなければならなくなりました。

目的

日本では多くの企業で、契約社員やパートタイム社員といった非正規社員の賃金が正社員よりも低く設定されています。これは、過去には非正規社員が正社員の補助的な業務を行う傾向にあったことによるものでしょう。

しかし現在の日本では、派遣社員・契約社員・パートタイム社員といった非正規社員が年々増加しており、非正規社員が正社員と同じ職務を果たすケースも珍しくありません。果たす責務が大きいのにもかかわらず、正社員と比べて待遇が悪いことが問題となっています。

ヨーロッパでは性別や人種による賃金差別を禁じており、「Equal pay for equal work」といった考え方が浸透しています。日本でも働き方改革の一環として、同じ職務を遂行する従業員間の待遇差を解消するためのルールが導入されることになりました。

対象となる労働者

2020年の法改正で同一労働同一賃金の対象となる労働者は、以下の通りです。

・派遣労働者(無期雇用の場合を除く)
・有期雇用労働者
・パートタイム労働者

適用時期

2018年に成立した働き方改革関連法案の一貫として、「改正労働者派遣法」および「パートタイム・有期雇用労働法」が2020年4月1日より施行されました。同一労働同一賃金のルールの適用日は以下の通りです。

派遣社員 契約社員・パートタイム社員
関連する法律 改正労働者派遣法(労働者派遣事業の適正な運用の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律) パートタイム・有期雇用労働法(短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律)
適用日 2020年4月1日 大企業:2020年4月1日
中小企業:2021年4月1日
派遣社員
関連する法律 改正労働者派遣法(労働者派遣事業の適正な運用の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律)
適用日 2020年4月1日
契約社員・パートタイム社員
関連する法律 パートタイム・有期雇用労働法(短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律)
適用日 大企業:2020年4月1日
中小企業:2021年4月1日

参考:厚生労働省 同一労働同一賃金 特集ページ

同一労働同一賃金が企業に与える影響

非正規社員の待遇改善を目的とした同一労働同一賃金は、企業に大きな影響を与える制度です。非正規社員の意欲向上といった効果をもたらす一方で、人件費などの負担を増す側面もあります。具体的にどのような影響が出るのかを知ったうえで、対応していくことが大切です。

非正規社員の職務内容の可視化

同一労働同一賃金の適用のためには、正社員と非正規社員の職務内容を整理しなければなりません。つまり、これまで明確になっていなかった各自の職務内容を可視化するチャンスでもあるのです。

特に派遣社員については、派遣会社が一人ひとりの派遣社員の職務内容・経験年数に応じた賃金設定を行います。派遣社員の担当業務が客観的な指標により可視化されるため、今後の採用計画の目安にもなるでしょう。

非正規社員の生産性の向上

同一労働同一賃金の適用により待遇が改善されることは、非正規社員の意欲向上につながります。成果・スキルを適切に評価される仕組みが整うため、非正規社員の仕事のパフォーマンスが上がると期待できるでしょう。

また今後、企業は非正規社員にも正社員と同様に教育訓練を受けさせなければなりません。一時的に教育コストが上がる可能性はありますが、非正規社員のスキルや専門性が向上すれば、仕事の生産性や効率が上がると期待できます。

ウェブスタッフでは、派遣社員の技術スキル向上のために、セミナーやイベントを定期的に開催しています。また、派遣社員一人ひとりにアドバイザーがつき、意欲と専門性の向上をサポートしています。

人件費の上昇

同一労働同一賃金のルールのもとでは、正社員と同様に非正規社員に対して、賃金や各種手当を支払う必要があります。そのため、非正規社員を多く雇っている企業では人件費が大幅に上昇し、企業経営を圧迫するリスクがあります。

同一労働同一賃金による人件費上昇の大きな原因のひとつが、非正規社員の通勤手当です。企業で設定する交通費の上限額が月々3万円だと仮定した場合、一人当たり年間最大36万円のコストがかかることになります。

人件費のコストを抑える手段のひとつが、派遣社員にテレワークをさせることです。通勤費を削減しながら人員を確保することができます。

関連記事:派遣社員の派遣社員のテレワークで業務効率の維持を!在宅勤務導入のために必要な準備は?

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同一労働同一賃金での派遣社員の待遇の決定方法

同一労働同一賃金の適用により、派遣社員の待遇は「労使協定方式」または「派遣先均等・均衡方式」によって決定されることとなりました。

労使協定方式

派遣会社(派遣元事業主)が一定要件を満たす労使協定を締結し、派遣社員の待遇を決定する方法です。労使協定方式では、同種の業務に従事する一般労働者(無期雇用のフルタイム労働者)と派遣社員の待遇を同等以上にすることが必要とされています。

現在多くの派遣会社で、労使協定方式が取り入れられている状況です。ウェブスタッフでも、派遣社員の待遇決定に労使協定方式を採用しています。

派遣先均等・均衡方式

派遣先の通常の労働者(無期雇用フルタイム社員)と派遣社員の待遇を同等にする方法です。企業は派遣会社に対し労働者の待遇情報を提供する必要があります。社内の正社員と比較して派遣社員の待遇を決定するため、企業によっては人件費増大につながる可能性が指摘されています。

労使協定方式における派遣社員の待遇

給与(基本給・賞与・手当)

派遣社員の給与は、同種の業務に従事する一般労働者の賃金(以下「一般賃金」という)と同額以上である必要があります。一般労働者とは、以下の3つを満たす無期雇用のフルタイムの労働者を指すものです。

1. 同種の業務に従事していること
2.  同程度の能力・経験を持つこと
3. 同一の派遣就業場所で就業していること

労使協定方式では以下の方法で一般賃金を時給換算して算出します。

職種別の基準値 × 能力・経験調整指数 × 地域指数
※1円未満の端数は切り上げ

「職種別の基準値」「能力・経験調整指数」「地域指数」は、毎年、職業安定局長通達で示される「賃金構造基本統計」「職業安定業務統計」などをもとに算出されるものです。
派遣会社は、上記の方法をもとに独自の賃金テーブルを設定し、派遣社員に適用します。

派遣社員に対して賞与の支払いが必要となるケースは?

同一労働同一賃金の考え方では、基本給だけでなく賞与や手当についても正社員と同様に支払わなければなりません。派遣社員の待遇決定に派遣先均等・均衡方式を採用している場合、それぞれの企業の制度に応じて賞与の支払いが必要となるでしょう。

しかし労使協定方式では、一般賃金の算出に利用される「職種別の基準値」は賞与込みで時給換算されています。また「能力・経験調整指数」も賞与を加味して算出されているものです。そのため、別途賞与を加算する必要はありません。

通勤手当(交通費)

同一労働同一賃金の制度により、派遣社員に対して通勤手当を支払うことが義務付けられました。労使協定方式では、以下の2つのうちいずれかの方法を選択し、通勤手当を支払います。

1. 交通費の実費を支給する方法
2. 一般通勤手当(※)に相当する額として、1時間あたり72円を時給に上乗せして支給する方法

※一般通勤手当とは、一般の労働者(いわゆる正社員)1時間あたりの通勤手当に相当する額として、職業安定局長通達で定められたもの。

ただし通勤手当を実費で支給する場合、通勤手当に上限に注意が必要です。通勤手当の上限が平均的な所定労働時間1時間当たりに換算して72円未満である場合には、1時間あたり72円を時給に上乗せする方法で通勤費を支給しなければなりません。

退職金

労使協定方式では、以下の3つの方法のいずれかを選択し、派遣社員に対して退職金を支払う必要があります。

退職手当制度に基づいて
支給する方法
職業安定局長通達で示される「退職金の算出に必要な所要年数、支給月数、支給額等の制度に関する統計」をもとに、退職金制度を設定する方法です。
具体的な退職金の算出方法については定まっていません。
退職金を前払いする方法 退職費用を毎月の賃金等で前払いする方法です。 一般賃金の6%を一般退職金として、毎月の給与に上乗せして支給します。
※1円未満の端数が生じた場合、端数を切り上げる
中小企業退職金共済制度等に
加入する方法
中小企業退職金共済制度や確定拠出年金等に加入する方法です。
職業安定局長通達で退職金の水準(6%)以上の掛け金額で加入する場合、一般退職金と同等以上とみなされます。
※1円未満の端数が生じた場合、端数を切り上げる

POINT

労使協定方式では派遣社員の待遇を派遣会社に任せられる

労使協定方式を採用する派遣会社から派遣社員を受け入れる場合、派遣会社側で待遇を決定するため、社内の正社員と派遣社員の待遇を同一にする必要はありません。

ただし派遣会社から要請があるにもかかわらず派遣料金の交渉に一切応じない場合などには、配慮義務を尽くしていないとして行政指導の対象となる場合があります(派遣法第26条第11項)。

福利厚生・教育訓練

同一労働同一賃金では、派遣社員が派遣先の正社員と同様に福利厚生や教育訓練を受けられるよう定められています。労使協定方式を採用した場合であっても、以下については、派遣社員が正社員と同様に利用できるようにすることが、派遣先企業に義務付けられました。

福利厚生施設
(給食施設・休憩室・更衣室)
派遣先企業は派遣社員にも利用機会を提供しなければなりません(義務)。
教育訓練 現在の職務の遂行に必要な技能や知識を習得するために派遣先企業が実施する教育訓練については、派遣社員にも実施するなど、派遣先企業が必要な措置を講じなければなりません(義務)。

派遣社員が派遣先企業の通常の労働者と同様の福利厚生・教育訓練を受けるために、派遣先企業は派遣会社に対して必要な情報を提供しなければなりません(配慮義務)(派遣法第40条第5項)。

そのほか、派遣社員の福利厚生や教育訓練については、以下のことが定められています。

その他福利厚生施設(※) 派遣先企業は派遣社員の利用に関する便宜を図る必要があります(配慮義務)。
慶弔休暇 派遣社員に対し、派遣先企業で雇用される通常の労働者と同一の慶弔休暇が付与されます。
健康診断に伴う勤務免除・有給 派遣社員が健康診断を受ける際には、派遣先企業で雇用される通常の労働者と同一の勤務免除や有給が保障されます。
病気休職 派遣社員は、派遣先企業で雇用される通常の労働者と同 一の病気休職の取得を認められます。
安全管理 派遣社員は、派遣先企業で雇用される通常の労働者と同 一の安全管理に関する措置および給付を受けられます。

※物品販売所、病院、診療所、浴場、理髪室、保育所、図書館、講堂、娯楽室、運動場、体育館、保養施設等

POINT

教育訓練の充実は優秀な派遣社員確保のチャンス

IT・Web業界では、派遣社員であっても成長意欲の高い人材が多く存在します。派遣社員に対してスキルアップのための教育訓練の機会を提供することは、生産性を向上させるだけでなく、人材の定着にもつながるでしょう。また教育訓練が充実していることは、派遣社員採用における企業の魅力付けにも効果的です。

参考:厚生労働省 局長通達本文(令和2年度の「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律第30条の4第1項第2号イに定める「同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金の額」」等について)
厚生労働省 同一労働同一賃金ガイドライン(厚生労働省告示第430号)
厚生労働省 平成30年 労働者派遣法改正の概要<同一労働同一賃金>

派遣社員の同一労働同一賃金に違反した場合の罰則

現在、同一労働同一賃金には明確な罰則は定められていません。しかし、派遣社員を受け入れる場合には、派遣会社だけでなく派遣先企業にも情報提供の義務が課されています。

もしも派遣社員を受け入れる企業が、比較対象者の待遇などに関する情報を派遣会社に提供しなかったり、情報の変更があったことを通知しなかったりした場合、厚生労働大臣による勧告や公表の対象となることがあります。

また適切な情報提供がない場合には、派遣会社からの優秀な人材提案を受けられなということも考えられるでしょう。

参考:厚生労働省 労働者派遣事業関係業務取扱要領 第13 行政処分を行った派遣元事業主及び無許可で労働者派遣事業を行った事業主の公表

人材確保のご相談はウェブスタッフへ

同一労働同一賃金の制度が始まったことにより、人件費を抑えながら人材を確保する方法に頭を悩ませる経営者の方もいらっしゃるでしょう。

ウェブスタッフはIT・Web業界専門の人材会社として、御社の予算に応じた方法で優秀な人材をご紹介いたします。人材派遣はもちろんのこと、同一労働同一賃金に対応した組織作りや採用支援など、人材確保のためのさまざまなサポートが可能です。

▶︎ご相談・お問合せはこちら

執筆者

コンサルタント 石川 コンサルタント 石川

専門コンサルティング分野:組織・人事
実務経歴:ハワイパシフィック大学経営学部卒。入社後、インド・バンガロールに駐在し、PIITsサービス立ち上げに従事。帰国後は、コンサルタントとして、国内外の人材派遣、人材紹介を手がける。

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